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バイクフィッティングを始めて10年が経ちました
バイクフィッティングの世界に足を踏み入れてから、早いもので10年の歳月が経ちました。
当時、スペシャライズドがアメリカで確立した**BG FIT(Body Geometry Fit)**が日本に紹介されたばかりで、
その理論と可能性に強く惹かれ、私はすぐに東京での認定講習へと足を運びました。
まるで昨日のことのように思い出されます。
バイクフィッティングという分野が、単なる「機材調整」ではなく、
ライダーの身体・技術・目標と真摯に向き合う“パーソナルなサポート”であると確信したのも、この頃です。
以来、より深く学び、実践し続けながら、数千件におよぶフィッティングを通じて多くのライダーと向き合ってきました。
これからも、バイクフィッティングの原点を忘れず、そして進化を止めず、
一人ひとりにとっての「最適なポジション」を共に探求してまいります。
当時、日本ではバイクフィッティングという概念はまだほとんど普及しておらず、
多くの方々がバイクのポジションを決める際には、専門誌で紹介された一般的な数値や、先輩方からの経験則に基づいたアドバイス、自分自身の感覚を頼りにしているのが実情でした。
もちろん、それらにも一定の有用性はあります。
しかし、“自分にとって本当に最適なポジション”は、身体の特性や柔軟性、技術レベル、競技歴などを考慮しなければ導き出すことはできません。
このような背景があったからこそ、私はバイクフィッティングの重要性を早い段階で実感し、
それを必要としている方々に届けたいという強い想いを持ち続けてきました。
2010年には、トライアスロンおよびTTバイクを対象としたBG FIT(Body Geometry Fit)**の認定を取得しました。
さらに翌2011年には、モーションキャプチャーシステムを用いた高度なバイクフィッティング技術「Retül」の認定も受けることができました。
しかしその当時、日本国内ではまだバイクフィッティングという概念は広く知られておらず、ロードレーサーやトライアスリートでさえも、自己流の感覚や雑誌・書籍を頼りにポジションを決めているケースがほとんどでした。
高度な機材や理論は存在していても、それを正しく使いこなし、個人に最適化された形で提供できる専門家は極めて限られていたのが現状です。
そんな状況の中で、私は「一人でも多くのライダーが、快適に、安全に、そしてより高いパフォーマンスでバイクに乗れるように」との思いから、理論と実践を重ね、今に至るまでフィッティングの質と信頼性を追求し続けてきました。
バイクフィッティングについて体系的に深く学びたかった私は、当時日本国内で受講可能だったすべての主要なバイクフィッティング資格を取得しました。
具体的には、BG FIT、MASTER BG FIT、BIKE FIT、RETÜLの各認定を修了しております。
いずれのプログラムも、単なる機材調整ではなく、身体構造・運動力学・実践的分析に基づいた「個別最適化」の考え方を軸とした内容であり、
フィッティングを一つの「技術」であると同時に「対話」として捉える姿勢を養う貴重な学びの機会となりました。
当時もそうでしたが、私自身がロードバイクに乗り始めた15年ほど前にも、
膝や腰の痛みに悩まされているライダーは少なくありませんでした。
一方で、その頃よく耳にしたのが、
「ロードバイクは膝に負担が少なく、腰にも優しいスポーツですよ」
という言葉です。
確かに、適切なポジションで正しいフォームを保てていれば、その言葉はある意味で事実です。
しかし現実には、不適切なポジションで乗り続けた結果、膝や腰に慢性的な不調を抱える人が多かったのも事実です。
そのギャップこそが、私がバイクフィッティングの重要性を強く感じるようになった原点のひとつでした。
バイクフィッティングを学び始めた理由
私が10年以上前にバイクフィッティングを学び始めようと決意したのは、
ただ一つ——**「怪我や故障をせずに、なるべく長く持久系スポーツを続けてほしい」**という想いからでした。
当時、日本ではまだ専門的なフィッティングに関する情報は限られていましたが、
アメリカから導入された各種バイクフィッティングシステムは、解剖学や機能解剖学を基盤に構築されており、
海外の専門書には、バイクに起因する身体の不調に対する具体的なストレッチや補強運動の対処法が、体系的に記されていました。
バイクフィッティングやコーチングを実際に行うには、身体の構造や機能に関する深い理解が求められると痛感し、
私は国内で開催されていたほとんどの講習会にも積極的に参加しました。
そして2011年、茅ヶ崎で開催されたモーションキャプチャーを活用した「RETÜL」バイクフィッティングシステムの講習会に参加した際、
その精度と理論体系に衝撃を受けたことを今でもはっきりと覚えています。
今振り返れば、あの講習会で共に学んだメンバーの多くが、現在の日本のバイクフィッティング界を代表するような存在となっており、
その場に居合わせたこと自体が、私にとって大きな転機であり、誇りでもあります。
当時のRETÜLフィッティングシステムは、まだスペシャライズドに買収される前であり、
単なるインソール調整やカント補正といった物理的なアプローチに留まらず、
「身体の使い方」そのものに着目した、非常に実践的で奥深い内容が特長でした。
講習会では、IRONMAN世界選手権KONAへの出場経験を持つアイルランド人コーチと、
元プロロードレーサーのオーストラリア人コーチが講師を務めており、
彼らの豊富な競技経験に基づく指導は、非常に説得力があり、理論と実践の融合を体現するものでした。
私は、彼らから直接学んだことによって、フィッティングとは単に数値を整える技術ではなく、
「人間の身体に寄り添い、パフォーマンスを引き出すための包括的なサポート」なのだという視点を得ることができました。
このときに受けた影響は、今の私のフィッティングの在り方や指導のスタンスにも、大きく活かされています。
私自身の考えとして、**バイクフィッティングは“必要最低条件”**であると考えています。
まずは一度、専門的なバイクフィッティングを受け、
自分にとっての基準となるポジションを知ること、そして
自身の身体の現状や特性(柔軟性・可動域・左右差など)を客観的に把握することが極めて重要です。
それを知らずに感覚や他人のセッティングを参考にしてバイクに乗り続けてしまうと、
パフォーマンスの向上を妨げるだけでなく、慢性的な故障や痛みの原因にもなりかねません。
バイクは機材スポーツであるからこそ、“正しく乗る”という意識と環境づくりが土台となるべきだと私は強く感じています。
現在では、全国各地のさまざまな施設でバイクフィッティングのサービスが提供されるようになり、
この10年でようやく、バイクフィッティングという概念が日本でも一定の認知と普及を得たと感じています。
バイクフィッティングは、単なる調整ではなく、快適さやパフォーマンス、安全性の土台となる重要なプロセスです。
まだバイクフィッティングを受けたことがない方は、ぜひ一度、お近くの信頼できる施設で体験してみてください。
“自分に合ったバイク”の感覚が初めてわかる瞬間が、そこにはあるはずです。
現在では、パワーメーターやモーションキャプチャーをはじめ、
さまざまな先進的な機器や分析ツールが存在し、私自身もその恩恵を日々受けています。
しかし、どれだけ機材が進化しても、最終的に重要になるのは“人間そのもの”であるという事実は変わりません。
つまり、自転車を動かす“エンジン”——それは他でもない、ライダー自身の「身体」です。
心肺機能、筋力、柔軟性、巧緻性、感覚といった身体能力の基盤こそが、
真にパフォーマンスを支える要素であり、どんな時代であってもその本質は不変です。
魔法のような近道は存在しません。
だからこそ、一歩一歩、自分自身と向き合いながら積み上げていくことが、
スポーツの楽しさであり、成長の醍醐味なのだと思っています。
言い換えるなら、**バイクフィッティングとは「高めた身体の機能を、より発揮しやすくするための調整」**だと言えるかもしれません。
私たちの身体は、よほど感覚に優れたアスリートでもない限り、
「自分が思い描いている動き」と「実際の動き」には、少なからずズレがあるものです。
自転車の場合、たとえば「エアペダル」(いわゆる素振りのペダリング)ひとつとっても、
スムーズに行える方はそう多くはありません。
まずは鏡を使って、自分のペダリングを客観的に見てみると、癖や偏りに気づくことができるはずです。
実際、今も昔も変わらず、バイクによる痛みや違和感、故障をきっかけに
“UNITY”を訪れる方が少なくありません。
だからこそ、私はバイクフィッティングやコーチングを通じて、
その故障や不安を未然に防ぎ、持久系スポーツを「長く、安全に、楽しく」続けていただきたいと願っています。
初心忘るべからず——。
この想いを忘れず、これからもバイクフィッティングやパーソナルトレーニングを通じて、
持久系スポーツの楽しさと、その先にある喜びを、多くの方に届けていけたらと考えています。